腰部脊柱管狭窄症とは、一言でいえば、背骨の中の神経の通り道がせまくなって、神経が圧迫され腰痛やしびれなどの症状が起きる状態です。腰部の脊柱管が狭くなる原因は、生まれつき脊柱管が狭いことが深く関係しています。
しかし、先天的に脊柱管が狭くても必ずしも狭窄症になるとは限りません。こうした先天的な要因に加えて、加齢による背骨や椎間板の変化、特にすべり症などが加わると脊柱管狭窄症が生じてきます。
脊柱管狭窄症は神経のどこが圧迫されるかによって次の3つに分類されます。
馬尾型
「馬尾神経」と呼ばれる腰部脊柱管内の神経の束、すなわち神経の本幹が圧迫される状態です。そのため、脚や臀部等の痛み・しびれ、排尿・排便障害、会陰部の違和感などさまざまな障害が出やすく重症です。
神経根型
馬尾から枝分かれをして背骨の間から出る神経の根元が圧迫されるタイプで、主に脚の痛み(坐骨神経痛)やしびれ、麻痺などの症状が出ます。
混合型
馬尾型と神経根型が合併したものです。
症状の特徴
特徴的な症状には「間歇跛行」(かんけつはこう)があります。「間歇跛行」とは、しばらく歩くと脚の痛みやしびれ・脱力が起こって歩けなくなり、少し休むとまた歩ける、という状態です。重症化すると1~2分しか歩けなくなります。
間歇跛行の原因は立位の姿勢で脊柱管がより狭くなり、神経が強く圧迫されるためです。そのため、しゃがんだり座って休むと、脊柱管が広くなり神経への圧迫が軽くなって、また歩けるようになるのです。
脚の動脈硬化でも同じような「間歇跛行」が起こりますが、この場合は立ち止まるだけで回復するので、座ったりしゃがんだりする必要がありません。そこが脊柱管狭窄症との大きな違いです。
脊柱管狭窄症と閉塞性動脈硬化症の症状の違い
状 況 | 脊柱管狭窄症 | 動脈硬化症 |
---|---|---|
杖をつくと歩きやすい | 歩きやすい | 無関係 |
立ち上がる時 | 痛む | 無関係 |
歩けなくなった時 | 必ず座る | 座らなくてもよい |
自転車に乗る | 楽 | つらい |
排尿・排便障害 | 起こる | 起こらない |
検査と診断
脊柱管の狭窄があるかどうかはレントゲン検査やMRI検査でわかります。しかし、画像所見だけで診断されるわけではありません。高齢者では加齢による変化で狭窄が起こることが多く、症状が出ない場合もあり、症状が無ければ治療も必要ありません。
症状があっても、本当に脊柱管狭窄症が原因か見極める必要があります。股関節や膝関節が原因で似たような症状が起こることもあるのです。特に特徴的な症状である「間歇跛行」の状態を詳しく分析することが必要です。
それ以外の検査として、神経根ブロックが有用です。本来は痛みの治療として行われるものですが、傷害されていると思われる神経根にブロック注射することで一時的に症状が消失して、楽に歩けるようになれば、その神経根が症状の原因と判断できます。
治療法
保存治療(手術しない治療法)
神経根型の場合は保存治療が中心となります。まず、安静をはかり、薬物療法として消炎鎮痛剤や神経の血行改善薬が使われます。それでも痛みがとれず、「間歇跛行」がひどい場合は神経ブロックが有効です。さらに、コルセットや理学治療も併用します。
手術治療
保存治療を3ヶ月程行っても症状が良くならないときは手術治療を考えます。特に馬尾型や混合型では多くの場合手術が必要となります。
なぜなら馬尾障害の症状であるしびれ、感覚障害、麻痺、排尿・排便障害は自然治癒することはなく、馬尾障害が長期になると神経は完全に弱ってしまいます。ある一定期間保存治療を行ってもよくならないときには早めの手術治療が望ましいのです。
日常の対策
腰部脊柱管狭窄がある人は神経を圧迫するような動作や姿勢を避けることが大切です。背中をそらさない、重いものを扱ったり、腰を急激にひねらない、同じ姿勢を長時間続けない。十分に注意してください。
当院では、年間約200名の方が脊柱管狭窄症で入院され、治療を受けておられます。「間歇跛行」の症状を感じておられる方は是非一度ご相談ください。